宮原芦葦

気分で文章を書いたりアップしています。

記憶

群馬生活以来の習慣で

今日も温泉に来た

サウナと外気浴を2回繰り返した後

露天風呂に浸かりながら

思緒は遠ざかっていく

 


目を瞑ると

一、二年前によく行った温泉にいる気分に

白い電球に薄暗く照らされた小さい露天の湯船

時刻がはっきり見えない壁掛け時計

赤みを帯びない灯りに油っぽく映る観葉植物は目前にあり

からっ風に乗ってきた養豚場の空気は

いつのまにか故郷の匂いのようなものになった

後頸の筋肉の力を抜き

頭を仰向けると

都市の光に汚染されていない

静寂の海よりも濃い夜空に

鏤める星々はダイヤモンドの如き

冷たく

鋭く

恋しく

 


記憶は記憶を美しく思わせる

記憶は記憶を粉飾する

記憶は我を欺く

 


四年ぶりに帰った実家は記憶の中より随分狭いのように

久しぶりに会った旧友との話が躓いたときのように

記憶と現実に衝突は我を記憶の囚人にする

アルバムに封じられた写真のように

 


記憶の囚人にならずに

記憶の主人になろう

さあ、カメラを持って出発して

未来を映るシャッターを切ろう